なら必ず成功すると思っているのだ。しかし、気をつけ給えよ。シムソンはどうしてなかなかの奴なんだから。殊《こと》に彼の邸《やしき》はすっかり電気仕掛の盗難予防器が張り廻してあって、ちょっとでも手が触れると、家中に鳴り響くと云う事だから、余程用心しなくてはいかんぞ」
「御注意有難う存じます。では、閣下、仁科は重要書類を奪回して参ります」
少佐は参謀総長以下|並居《なみい》る上官に一渡り敬礼して、元気よく部屋を出ました。
猫と鼠
夜は深々《しんしん》と更けて、麹町《こうじまち》六番町のウイラード・シムソンの邸《やしき》のあたりは、まるで山奥のように静まり返っています。時折ヒュウヒュウという梢《こずえ》を吹く木枯しの音が、反《かえ》ってあたりの静かさを増しています。この夜更《よふけ》に、この寒さに、こんな所を通る人はあるまいと思うのに、折しもコツコツと歩道を踏んで来る人影がありました。
彼はシムソンの家の前に来ると、立止って、暫くあたりの様子を覗《うかが》っていました。門の前の電灯に照し出された男は、外套《がいとう》の襟《えり》を立てて、帽子を眉深《まぶか》にかぶっていますが、
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