ストルを手許《てもと》に引き寄せました。
「危い、危い。子供がこんなものを玩具《おもちゃ》にしては危険千万だ。先ず、これで一安心だ」
「早く水を止めて下さい」
「そう急がなくても、地下室一杯になるにはたっぷり二時間かかるのだ。今頃はもう踝《くるぶし》の所まで来たろう。君のお父さんはさぞかし、生きた空がなくて、冷々《ひやひや》しているだろうて。だが、そう急ぐ事はないて」
「悪漢! 人殺し! 間諜《スパイ》!」
 道雄少年は土のように顔を蒼白《あおじろ》くしながら、ののしりました。
「ハハハハ、間諜だけは本当だ。けれども、私は人殺しでも悪漢でもない。君達が父子《おやこ》で私を諜計《はかりごと》にかけようとするから、そう云う目に会っただけの話だ。所で、聞くが、ここへ来たのは君達二人だけだろうね」
「そうです」
 道雄少年はもう相手の云いなりになるより仕方がないと云う風に、おとなしくうなずいた。
「では、三日の間、君もお父さんと一緒の部屋に居て貰うことにしよう」
 シムソンはそう云いながら、机の上の呼鈴の釦を押しました。所が、どうしたのか、なかなかソーントンが出て来ないので、シムソンはいらいら
前へ 次へ
全23ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング