次《やじ》学生もそれ以上弥次質問をする事が出来ず、黙って終った。私はふと絶命の時間について訊いて見ようと思ったが、時間中でなくとも、いつでも訊けると思い直して、口を開かなかった。
先生は講義を始められた。思いなしか、いつもほど元気がないようだった。同僚の不慮の死にあって、心を痛めておられるのだろうと、私はひそかに思った。
放課後、私は先生の教室に行った。
「毛沼先生が大へんな事になりまして」
「ええ、大へんな事でした。然し、あなたは大分迷惑しましたね」
「いいえ、そんな事は問題じゃありません。先生、毛沼博士は十二時前後に死なれたのじゃないかと思うんですが、どうでしょうか」
「宮内君の鑑定では十一時|乃至《ないし》一時という事です」
「十一時? そうすると、私が出てから三十分足らずの間ですね」
「死亡時間の推定は正確に一点を指すことは出来ませんから、通常相当の間隔をとるものです。一時の方に近いのでしょうね」
「仮りに一時としても、私が先生を最後に見てから、二時間半ですけれども、その間放出したガス量で中毒死が起りましょうか」
「起りましょうね」
といって、鳥渡言葉を切って考えて、
「
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