見つけた時に、毛沼博士は笠神博士が之を欲しがっている事を知っている筈だし、毛沼博士にとっては専門違いのもので、さして惜しくもないものだから、快く進呈すればいいのに、持っていながら黙って隠している意地悪さに、鳥渡義憤を感じたのだったが、今開いてみると、どうだろう、その写真版だけが、引ちぎってあるのだ。而もそれが非常に急いだものらしく、写真の隅の一部が残っているほど、乱暴に引ちぎってあるのだ。
(毛沼博士が引ちぎったのだろうか)
 博士は寝台の上で半眠の状態にいて、私がこの雑誌を見た事を知って、私が部屋を出ると、すぐに起上って、急いで引ちぎったのだろうか。博士はそれ程の事をしかねない人である。然しながら、それをそんなに急いでしなければならないだろうか。私が再び部屋に帰って来て、それを持って行く事を恐れたのだろうか。それなら、写真版だけ引ちぎらなくても、防ぐ事は出来るではないか。まさか私が夜中にそっと盗みに来ると思った訳でもないだろう。何とも合点の行かない事である。私は出来るなら、机の抽斗その他を探して、引ちぎった写真版の行方を尋ねたいと思ったが、そんな自由は許される筈がなかった。
 私は雑
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