昨夜と何か変った所がありますか」
「いいえ」
と答えたが、署長の言葉に刺戟されて、ふと昨夜興味を持った雑誌の事を思い出して、机の上を見ると、私は確かにちゃんと揃えて置いたのに、少し乱雑になっているようである。
(夜中に博士が触ったのだろうか)
と思いながら、傍に寄って、一番上の雑誌を取上げて、鳥渡頁を繰って見たが、私は思わずアッと声を出す所だった。然し、辛うじて堪《こら》えて、そっと署長の方を盗み見たが、幸いに床の上にしゃがんで、頻《しき》りに何か調べている所だったので、少しも気づかれないようだった。
何が私をそんなに驚かしたのか。私は昨夜ここへ毛沼博士を送って、ふと机の上の雑誌を見て、興味を持ったのは、それがかねて、私が、というよりは笠神博士の為に、熱心に探し求めていた雑誌だったからである。それは一二年以前にドイツで発刊された医学雑誌であるが、その中には法医学上貴重な参考になるべき、特種な縊死体の写真版が載っていたのだった。この雑誌は日本に来ているのは極く少数である許《ばか》りでなく、ドイツ本国でも発行部数が少ないので、どうしても手に這入らなかったものだった。昨夜ふとこの雑誌を
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