半眼を見開き、口を歪めて、蒲団から上半身を現わしながら、強直して縡切《ことき》れていた。
私は鳥渡不審を起した。
死体の強直の様子から見ると、少くとも死後十時間は経過しているように思われる。そうすると、博士の死は夜半の十二時後になり私達が部屋を出てから一時間半後には、絶命した事になる。仮りに私達が部屋を出た直後、博士が起きて、扉の鍵をかけ、その時に誤って、ストーブの管を抜いたとしても、絶命までには瓦斯の漏洩は一時間半である。僅かに一時間半の漏洩で、健康体が完全に死ぬものだろうか。
私は部屋を見廻した。部屋は十二畳位の広さで、天井も可成高い。今はすっかり窓が開け放たれているけれども、仮りにすっかり締められたとしても、天井の隅には金網を張った通風孔が、二ヶ所も開けてある。私には瓦斯がどれ位の毒性のあるものか、正確な知識はないが、この部屋にこのガス管から一時間半噴出したとして、或いは知覚を失うとか、半死の状態にあるとか、仮死の状態になるとかいう事はあり得るかも知れないが、その時間内に絶命するという事はどうかと思われるのだ。
私がキョロキョロ室内を見廻したので、署長は直ぐに訊いた。
「
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