あり得ることだ。現に知名の士で、ストーブの瓦斯|漏洩《もれ》から、死んだ人も一二ある。だが、私には毛沼博士の死が、どことなく不合理な点があるような気がするのだった。
「じゃ、過失と定ったのですか」
「ええ」
署長はジロリと私の顔を眺めて、
「大体決定しています。然し、相当知名の方ですから、念を入れなくてはね。それで、態々《わざわざ》来て貰ったのですが、御足労|序《ついで》に一度現場へ来て呉れませんか。現場についてお訊きしたい事もあるし、それに君は法医の方が委しいから、何か有益な忠告がして貰えるかも知れない」
「忠告なんて出来る気遣いはありませんけれども、喜んでお伴しますよ」
私達は直ぐ自動車を駆って、毛沼博士邸へ行った。もう十時を少し過ぎていて、曇り勝な空から薄日が射していたが、外は依然として寒く、街路に撒《ま》かれた水は、未だカンカンに凍っていた。邸前に見張をしていた制服巡査は寒そうに肩をすぼめていたが、署長を見ると、急に直立して、恭々《うやうや》しく敬礼した。
寝室は死骸もそのまま、少しも手がつけてないで保たれていた。昨夜あんなに元気だった博士は、もうすっかり血の気を失って、
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