とこちらを見詰めている。どうも只ならぬ気色《けしき》なので、私は寒いのも忘れて、むっくり起き上った。
「何か用ですか」
すると、おかみは返辞の代りに、手に持っていた名刺を差出した。何より前に私の眼を打ったのは、S警察署刑事という肩書だった。
「ど、どうしたんですか」
私はドキンとして、我ながら恥かしいほどドギマギした。別に警察に呼ばれるような悪い事をした覚えはないのだけれども、腹が出来ていないというのだろうか、私はだらしなくうろたえたものだった。
おかみは探るような眼付で、もう一度私を見ながら、
「何の用だか分りませんけれども、会いたいんだそうです」
私は大急ぎで着物を着替えて、乱れた頭髪を掻き上げながら階下に降りた。
階下にはキチンとした服装をしたモダンボーイのような若い男が立っていた。それがS署の刑事だった。
「鵜澤さんですか。実はね、毛沼博士が死なれましてね――」
「え、え」
私は飛上った。恰《まる》で夢のような話だ。私は昨夜遅く、毛沼博士を自宅に送って、ちゃんと寝室に寝る所まで見届けて帰って来たのである。私だって、兎《と》に角《かく》もう二月すれば医科の三年になるん
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