い悲劇の重大要素となり、この物語の骨子ともなるのだから、軽々しく見逃すことは出来ないのだ。
 人間の血液型については、今日では殆ど常識的になっているから、ここに改めて諄々《くどくど》しく述べる必要はないが、後にこの物語に重大な関係を持って来るし、私を笠神博士に結びつけたのも、血液型の問題が重要な役目をしているので、ここで鳥渡触れたいと思う。
 笠神博士が法医学が専門であることは既に述べたが、先生は血液型については、最も深く研究せられて、その第一の権威者なのである。人間の血液が、そのうちに含まれている血球と血清の性質によって、A、B、O、ABの四型に分類されることは、最早動かすべからざる事であり、その分類も比較的容易に出来るから、法医学に於て重要視するのは、寧《むし》ろその応用にあるのだ。中でも一番重要なのは血液型による親子の決定である。
 抑々《そもそも》忠孝といい、仁義といい、礼智信といい、人倫の根本となるべきものは親子である。所が、文化の非常に進んだ今日、未だ科学的に確実に親子を決定すべき方法がないのは、悲しむべき事であるが、事実であるのは致し方がない。然し、血液型の研究によって、
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