る。そんな訳で、先生の颯爽《さっそう》たる講義に接した最初は、どの学生でもみんな眩惑されて終う、そうして、多数は最後まで引摺られて行くのだ。
所が、之に反して笠神博士は表面誠に陰気で、無愛想で口下手だ。酒も呑まないし、変に固苦しくて、誰だって親しめるものではない。然し、よく観察すると、内面的には実に親切な人で、慈悲深く、意地の悪い所や狡猾い所は微塵もなく、学問に忠実で、公平無私だ。弟子は少いけれども、非常によく可愛がって、自分の功績を惜しげもなく譲って終う。毛沼博士は自分に都合のいい人間は、よく可愛がるが、都合の悪い人間は排斥するし、昨日までよくても、今日はもう悪くなるという風だが、笠神博士は自分の悪口をいうような人間でも、学問の上で見所があれば、どこまでも親切に面倒を見る。交際《つきあ》えば交際うほど、親しくすればするほど、味の出て来る人である。
私はN大学のA教授のように、血液型で人の性質が定るものだとは考えない。然し、毛沼博士と笠神博士との血液型が、全く異っているのは、興味のある事だと思う。即ち毛沼博士はB型で、笠神博士はA型なのだ。而もこの血液型の相違が、後に傷《いたま》し
前へ
次へ
全75ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング