後者には親しまなかったのだった。
全く、両博士のように、故郷を同くし、中学から大学まで同じ級で、同じ道を進み、卒業後も肩を並べて、同じ学校の教授の席を占めているという事も珍らしいが、その性格が全く正反対なのも珍らしいと思う。
毛沼博士は表面豪放で磊落で、酒も呑めば、独身の関係もあるが、カフェ歩きやダンスホール通いもするし、談論風発で非常に社交的である。だから、誰でも直ぐ眩惑《げんわく》されて、敬愛するようになるが、よく観察すると、内面的には小心で、中々意地の悪い所があり、且つ狡猾《ずる》い所がある。自分の名声については、汲々《きゅうきゅう》として、それを保つ為には時に巧妙な卑劣な方法を取る事を辞さない。勝れた学識と、外科手術の手腕を持つ助教授が、栄転という美名の許に、地方の大学の教授に巧みに敬遠せられた例が二三あるし、弟子に研究させて、それを誇らしげに自分の研究として、学界に報告した事も、私は知っている。何しろ口が旨いから、空疎な講義の内容も、十分|胡麻化《ごまか》されるし、学者仲間には兎も角、世間に対しては、いかにも学殖のある篤学の士のように見せかける事は、易々《いい》たる事であ
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