るんだからね」
「事柄によります。第一、そんな事を、何の必要があって調べるんですか」
「必要があるとかないとかという事について、君の指図は受けない」
 署長は鳥渡|気色《けしき》ばんだが、直ぐ元の調子になって、
「この話は打切としよう。君は法医の方に興味があるそうだが、之を一つ鑑定して呉れませんか」
 署長は机の抽斗《ひきだし》を開けて、紙片のようなものを取出した。

     血液型の研究

 私はここで少し傍路に這入るけれども、私と笠神博士の奇妙な因縁について、述べて置きたいと思う。
 笠神博士も毛沼博士も、前に述べたように、M高の先輩ではあるけれども、そうして無論M高在学中に、どこの学校にもあるように先輩についての自慢話に、医科には先輩の錚々たる教授が二人まであることは、よく聞かされていたが、親しく接するようになったのは、大学に這入ってからの事であった。
 両先生の教授を受けるようになってから、誰でも経験するように、私は直ぐに毛沼博士が好きになって、笠神博士はどっちかというと嫌いだった。毛沼博士は磊落で朗かであるのに、笠神博士は蒼白い顔をして、陰気だったから、誰でも前者を好いて、
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