であることが分った。
「あなたは昨夜毛沼博士を自宅まで送ったそうですね」
署長の質問も先刻刑事のいった通りの言葉で始まった。
「はア」
「何時頃でしたか」
「十時過ぎだったと思います」
と、この時に博士邸の寝室に置いてあった時計を思い出したので、
「そうでした、寝室を出る時に、確か十時三十五分でした」
「そうすると、会場を出たのは」
「円タクで十分位の距離ですから、十時二十五分頃に出た事になります」
「どういう会合だったのですか」
「医科の学生で、M高出身の者の懇親会でした」
「何名位集まりました?」
「学生は十四五名でした。教授が毛沼博士と笠神博士の二人、他に助教授が一人、助手が一人、M高出身がいるのですけれども、差支えで欠席でした」
「会場では変った事はありませんでしたか」
「ええ、別に」
私はこの時に、会場で毛沼博士と笠神博士とが、いつもとは違って、何となく話合うのを避けていたようだったのを思い出したが、取り立てていうほどの事でもなし、それには言及しなかった。
「毛沼博士は元気だったですか」
「ええ」
「酒は大分呑まれたですか」
「ええ、可成呑まれました」
「どれ位? 正体のなくなるほど?」
「いいえ、それほどではなかったと思います。自宅へ帰っても、ちゃんと御自身で寝衣《ねまき》に着替えて、『有難う、もう君帰って呉れ給え』といって、お寝《やす》みになりましたから」
「君はいつも先生を送って行くのですか」
「いいえ、そういう訳ではありませんけれども。先生の家は私の近所だものですから、みんな送って行けというので」
「毛沼博士と君とが一番先に出たんですね」
「いいえ、笠神博士が一足先でした」
「やはり誰か送って行ったのですか」
「いいえ、笠神博士はお酒をあまりお呑みになりませんので、殆《ほとん》ど酔っていらっしゃいませんでしたから――」
「毛沼博士が家に這入《はい》ってから、寝られるまでの間を、出来るだけ委《くわ》しく話して呉れませんか」
「そうですね。円タクから降りて、大分足許のよろよろしている先生の手を取って、玄関の中に這入ると、先生はペタンとそこへ腰を掛けて終《しま》われました。取次に出た婆やさんが『まア』と顔をしかめて、私に『すみませんけれども、先生を上に挙げて下さい』というので――」
「玄関に出たのは婆やだけでしたか」
「いいえ、女中がいました。女中
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