たが、その時に森君は以前《まえ》に見て置いたと見えて、村の交番の中に駆け込んだ。(ここは交番と云うのではなく駐在所と云うんだそうだ)僕も続いて駆け込んだ。中にいた巡査は目を丸くした。
「そ、そいつは泥棒です」
息を切らしながら後から駆けて来た坊さんは、巡査とは知合《しりあい》の中だから、ちょっと会釈《えしゃく》して、僕たちを睨《にら》みながら云った。
「泥棒でも何でもありませんよ。坊さんの方が悪いのです。これを見て下さい」
森君も息を弾《はず》ませながら云って、手に握っていた瓶を巡査の前に差出した。
「な、なんじゃね。之《これ》は」
巡査は吃驚《びっくり》したように云った。びっくりするのも無理がない、誰だって出し抜けに汚い瓶を目の前に出されたら、何が何だか分りゃしないもの。
「之はお寺の縁の下にあったのです。これは劇薬の塩酸の瓶です。これは――」
森君が云いかけると、坊さんは今まで真赤にしていた顔を、急に真蒼《まっさお》にして森君に飛びかかろうとしたが、直ぐに思い返して、ドンドン元来た方へ逃げようとした。
森君は大きな声で叫んだ。
「アッ、逃がしてはいけません。早く捕まえて下
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