小間使を安心させて、自殺することを悟られない為の用心と見られるが、小間使が出て行ってから、毒薬と一緒に残ったもう一回分の催眠剤を取ったのは可怪《おか》しいではないか。
野村はこの事をいおうと思ったが、別に必要もない事だと思って直ぐ止めた。そして、
「どうもいろ/\有難うございました」
といって、太田医院を出た。
彼は再び二川邸に行った。
そうして、もう一度千鶴を別室に呼んだ。
重武が異様な眼で彼の行動を見守っているであろう事は、十分察せられたが、今は、そんな事を考慮に入れていられなかった。
「度々《たび/\》だけれども」野村は千鶴の利発らしい顔をじっと見つめながら、「前の晩、君が水を持って行った時に、重明さんは催眠剤を呑んだというが、むろん一回分だったろうね」
「はい、一度分でございました。一服だけ召し上って、もういゝからあっちへお出《いで》、おやすみと仰有《おっしゃ》いました」
「すると、もう一服残っていたね」
「はい」
「それで、翌日の朝部屋に行った時に、その残りの一服はどうなっていた?」
「覚えておりません」
千鶴は始めて気がついたように、ぎょッとしながら、
「本当
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