きっともっと打明けた態度になったであろう。生前にこの事実を知ったら、何か旨い忠告が試みられたかも知れない――が、すべては後の祭りだった。
 野村は、彼を信頼して、死後遺書を送って来た重明に対して、どうしたらいゝだろうか。
 すべては翌日の問題として、その夜は眠られぬまゝに明かした。

 警察或いは検事局に告発するという事が、翌朝野村の頭に浮んだ最初のものだったが、彼は少し躊躇した。そうした官署へ告発すべく、内容が余りに怪奇で、曖昧で、確証が少しもないのだ。私立探偵を、と考えたが、之は適当な人も思い浮ばなかったし、効果もどうかと思ったので、直ぐその考えを止めた。
 で、結局、野村自身が探偵に従事することにした。

 野村は二川邸に向った。一度聞いた事ではあるが、もう一度委しく重明の屍体発見当時の事を聞かなくてはならないのだ。
 昨日解剖の為に屍体が大学へ持って行かれたので、予定が一日延びて、いよ/\今夜最後の通夜をして、明日は荼毘《だび》に附する事になっていた。
 重武は葬儀委員長という格で、相変らず何くれと采配を振っていた。野村を見ると、
「やア」
 と、愛想よく挨拶《あいさつ》したが
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