之が、可成大きな発見だす。以前にも申しました通り、和武はこの時に山から帰ってから、二三年消息を晦《くら》まし、再び現われた時にはころッと性質が変っています。あれほど好きだった山登りもふっつり止めるし、惚れ抜いていた女子の所へも、ふっつり寄りつかなくなるし、喜んでいた上京も止めています。山で何事も起らんで帰って来たンなら兎に角、得体の知れぬ人間が途中で飛び込んで来て、四五日一緒にいて、忽《たちま》ち消えてなくなっております。鳥渡変な事が考えられるやおまへンか。
 そうなると、その変な旅人の人相が問題だすが、之が又はっきり覚えとる人夫があらへンのだす。和武と似ていたかちゅうて訊くと、なンやよう似ていたような気がするちゅう返事で間違えるほど似ていたかちゅうと、それほどでもないと答えるかと思うと、四五日の籠城の時に、一ぺん間違ったことがあるちゅうし、何をいうても山男見たいな人間のいうことで、さっぱり、はっきりした事がいえまへンので、どうにもならんのだす。
 けンど、所謂《いわゆる》情況証拠ちゅう奴が、大分揃うていますさかい、私はえらい大胆な判断やけど、ひょっとしたら、今の和武は偽者やないかしら
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