れるとは、何と奇《く》しき事ではないか。
 書留の書類には添え手紙があった。それは宮野得次という全く未知の弁護士から送られたもので、それにはかねて二川子爵から依頼を受けていたもので、絶対に秘密に保管して、子爵が死んだ時に、直ちに遅滞なく貴下宛に送るべく命ぜられていたもので、今やその命令通り実行するものである事が認《したゝ》められていた。母親は彼女の夫に先代子爵の遺書の送られた事をよく覚えているので、不安そうに、
「やっぱり遺書でしょう」
「えゝ、どうもそうらしいです」
 野村は封を切った。母親は暫く坐っていたが、
「ゆっくり読みなさい」
 野村はそれを見送って、電灯をパチンと捻《ひね》って、送られた遺書を読み始めた。(前篇終り)


          五

 重明から送られた遺書は、一、二、三と三部に分《わか》たれて、それ/″\番号が附してあった。
 野村は順序に従って、先ず第一の番号のつけてあるものを取上げた。日付は書かれていなかったが、内容と前後の関係から推して、重明が雪渓の発掘を始める少し以前らしく、六月の終りか、七月の初めの頃と思われた。

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 六月の雨
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