う。そうしてそれは恐らく焼却して終ったのに違いない。探偵社の方へも、むろん少なからぬ金が、報酬の名義で送られたに相違ないのだ。
重武の秘密というのは、いずれ詐欺とか横領とか、相当重い罪で、二川家の方で問題にすれば、きっと危なかったものに違いないと、野村は思った。
然し、交換条件そのものは、可成重武に有利なものだったらしい。というのは、重武はその後東京に引移り、二川家から相当額の支給を受けて、大きな顔をしてブラリ/\と懐手《ふところで》で暮していたらしいのである。
尤も、彼はお清は苦手らしかった。だから彼女が二川家にいる時分はやゝ遠退いていたが、彼女が去ると、次第に二川家に出入するようになって、今から約十年以前に未亡人朝子が死に、続《つゞい》て間もなく野村の父が死ぬと、もう恐ろしいものがないので、大びらに二川家に這入り込んで、我もの顔に振舞っていたのだった。未亡人の亡くなる前後から以来《このかた》の事は野村にも確乎《しっかり》した記憶があるのだ。
書類を残らず読み終った時には、夏の日ももう暮れかゝっていた。
野村は夕暗《ゆうやみ》の迫って来る、庭をじっと見つめながら、父がこの
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