出した時に、突然、関西方面を放浪していた叔父の重武が上京して来た。そうして、彼は先ず未亡人朝子に難題を吹きかけたらしい。それが拒絶されると、彼は矢継早やに地方裁判所や区裁判所や戸籍役場に訴えを起したのだった。
 彼は重明の出生届を虚偽の届出であるとして、朝子に妊娠の能力なき事、妊娠分娩を証明すべきものなきこと、重明の真の父母は、高本安蔵とお清なること、等々を書並べて、区裁判所に、二川家の戸籍法違反の告発をなし、一方戸籍役場には、法律上許すべからざる記載として、戸籍簿の訂正を申請した。他方には又、地方裁判所に、重明の相続無効の訴訟を提起したのだった。
 野村の父は、重行の死後の依頼を余りにも早く果さなければならなかったのだった。

[#ここから2字下げ]
 重行の告白書を読み終った時に、余りの意外さに、暫くは唖然とした。彼は巧みに僕を欺いていたのだ。僕は鳥渡《ちょっと》立腹した。然し、直ぐに彼に同情した。善悪は兎に角、そうしなければならなかった彼の心情を憐む他はないのだ。
 然し、余りにも早く彼の恐れていたものが来たのには、之亦《これまた》驚くの他はなかった。
[#ここで字下げ終わり]

前へ 次へ
全89ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング