方の知れる事が当がなかった。
私達は可愛い赤ン坊を間に置いて当惑した。
どうしよう、どうしようと云いながら二三日経ってしまった。いろいろのものを赤ン坊の為めに買い調えねばならなかった。親の方では随分探しているだろうと思って、新聞社の前へ行ったり、隣のを借りたりして、新聞の広告には残らず眼を通したが、それらしいものはなかった。もしやと思って、呉服店の前へも二三度行って見たが、駄目だった。
でも赤ン坊は障りなく育って行った。もう大分馴れて、私達の顔を見るとニコニコ笑う。それにつけてもほんとうの親達の心はどんなだろうと思うと、じっとしていられなかった。
妻はお襁褓《むつ》をこしらえたり、それを取り替えたり洗ったり、それに世帯の苦労が加わりながらも、始終機嫌の好い顔をして、赤ン坊の世話をした。妻は真から赤ン坊を可愛っているようだった。三日目の朝こんな事を云った。
「あなた、この赤ン坊宅の子にしましょうか」
「馬鹿を云え」私は答えるのだ。「そんな事が出来るものか。第一親が承知しやしないよ」
「でも親が、今だに何ともしないのは可笑しいわ。きっと何か事情があって、棄子にでもしたんじゃないでし
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