》しかった。その大事な息子の魂が、父の見解に従うと売女としか思えない女給風情に盗み去られると云う事は、耐らないことであったのだ。
或日とうとう最後の時が来た。私は父に袂別の辞を述べて家を出たのだ。それから人目を避ける為めに偽名をして、この路次の奥のささやかな家に世帯を持っているのだ。
それから三年越し私達は随分苦労した。私は妻とした上は女給をさせて置く事は出来なかったから、僅か許り持出した金を頼みに、内職をしたり、ホンの僅な給料で勤めたりして、細々と生計を立てて来た。それが、何と云う不幸だろう。三月程前からすっかり職に離れて終ったのだ。一生懸命に倹約《つつま》しくして、やっと手つかずに残して置いたいくらかの貯えも、もうあと二月とは保たないのだった。それで私は毎日就職口を探して歩いていたのである。でも父に詫びると云う事はどうしても私の意地が許さなかった。こんな情けない有様を父に見られるのは死ぬより辛い。こんな事情で警察へ訴える事は、どうしても出来なかった。
と云って同じような理由《わけ》で、新聞広告も出来なかった。私立探偵となると、費用はよし後に先方で出して呉れるとした所で、いつ先
前へ
次へ
全26ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング