なく子供を生んだ。それが私の見た赤ン坊のお母さんだった。赤ン坊のお母さんは以前に一度私の宅へ奉公に来た事があるそうで、私をよく見知っていた。あの日自動車に乗り悩んでいた時に、親切に赤ン坊を取って呉れた青年を一眼見ると、それが私だったので、あっと思ううちに自動車に乗り損って終った。次の自動車が中々来なかったのが間違いの元だった。彼女は気が気でないので、電車に乗った。その電車が故障を起したので、乗替場所まで歩いたりしていたので、大へん暇取った。そのうちに私は父を見つけて(父は彼女と赤ン坊を待っていたのだった。彼女とは別居していたので、時折打合して買物などを一緒にした)、外へ出て終ったので、彼女の来た頃には私は居なかった。父と彼女は私を探したけれども、無論見つからなかった。
父は赤ン坊が他人ならぬ私の手に渡ったので、いくらかは安心していた。そして父はこの赤ン坊の事件を警察の手に出す事を好まなかった。父は久しい以前から、もう私を許しているのだった。父は私が帰りさえすれば、いつでも抱き迎えたのだった。それで充分手を尽して私の行衛を探していたのだったが。今度は同時に赤ン坊の行衛も突留める事が出来
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