しいお葬《とむらい》を出してね、奉公人はそれぞれ暇を取って帰ったのですが、あたし内野さんと変になっちゃってね、下村さんを警察へやっちゃったと思うと、なんだか内野さんが頼もしくない人のように思えて、どうも前のようにはならなかったわ。それでも別れる時に、『八重ちゃん、さようなら、ご縁があったらまた逢いましょう』といわれた時には何だか心細くて涙が出たわ。
 その後の事はあんたも新聞で知っているでしょう。清水と古田は先生の研究を盗もうとした罪で刑務所へ入れられたわ。清水はあの日殺人の嫌疑が逃れられぬと思った為に、すっかり驚いてしまって、その後頭脳が呆けてまるで駄目になっちゃったそうだわ。矢張《やっぱ》り天罰ね。先生のご研究というのは何でも戦争に役に立つ事なんですって。これは無事に陸軍だか海軍だか知らないが、ちゃんとその方へ納まったんですって。ただ思いがけなかったのは下村さんが警察へ行く途中で逃げちゃった事だわ。あたしまさかそんな事する人とは思わなかったんですけれどもね。人って分からないものと思っていたの。そうしたらなんでも二、三カ月経って、清水や古田の事がすっかり落着《らくちゃく》した時分よ、
前へ 次へ
全40ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング