をすれば、それは清水の手にかかったのだ――』
 よく覚えていないけれども文章はまあこんな風だったと思うわ。奥さんのいいつけでこの遺書を持って検事さんの所へ行くと、流石《さすが》のお爺さんも驚いたようだったわ。それから一時間程して、清水の業突張《ごうつくば》りが書斎へ連れられて来たの。まるで死人のような真っ蒼な顔をしていたわ。何しろ文鎮には立派に清水の指紋がついていた事が判ったのでしょう。前夜遅くまで家に帰らなかった弁解《いいわけ》は出来ないし、先生との関係がどんな風だか[#「どんな風だか」は底本では「どんな風だが」]、下村さん達がいったし、それに先生の書き置きでしょう。とても逃れる所はないんですものね、蒼い顔をして悄然《しょうぜん》としているのを見ると、あたしはほんとにいい気味だったわ。こいつが先生を殺したんだと思うと随分憎らしくもあったわ。
 あたしそう思ったわ。清水の奴、文鎮で先生を殺して置いて、ええ、傷口はピッタリ文鎮と合ったのよ。これで打った事は疑いの余地はないの。そして自分の事を書いてある遺書《かきおき》のあるのをどうかして知っていて、それを奪《と》ろうと部屋中探したに違いな
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