文明と堕してしまつた。
 今や世界は目的がない。そして目的がない時に来る当然のことゝとして、心そのものよりも、その心が如何見られるかといふことに念を置いて生きてる者等ばかりとなつた。人々は皆卑屈になつてもう卑屈が卑屈とみえないで、寧ろ思慮あることのやうに考へられるといふふうにまでなつてゐる。尤も現在の我が国では、その卑屈を思慮あることのやうに考へる人さへ、僅少なのであつて、他の人達は考へるといふことそのことをだにしないのである。それでゐてその人達が物を言ふ。何を言ふかといふと形容詞的な余りに形容詞的なことか、それとも学問的な余りに学問的なことなのである。而もそれらを極めて不誠実に、生活的意義から全く離れて。又、偶々生活的意義といふ言葉を気付いた人がゐると、その人は生活のことを生活的意義を離れて話してゐたりするのである。
 総じて陰気くさくつて而もバラ/\だ。悪賢い小商人がいちばん活々して生きてゐるといふ有様だ。
 こんな中では私は、無鉄砲少女が好きなんです。

     ×        ×        ×

 或る一つの内容を盛るに最も適はしい唯一形式は、探し得られる。けれども、内
前へ 次へ
全10ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中原 中也 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング