そぞろ。

しづかにしづかに酒のんで
いとしおもひにそそらるる……

  ホテルの屋根に降る雪は
  過ぎしその手か、囁きか

ふかふか煙突煙吐いて
赤い火の粉も刎ね上る。


 生ひ立ちの歌

   I
    幼年時
私の上に降る雪は
真綿《まわた》のやうでありました

    少年時
私の上に降る雪は
霙《みぞれ》のやうでありました

    十七―十九
私の上に降る雪は
霰《あられ》のやうに散りました

    二十―二十二
私の上に降る雪は
雹《ひよう》であるかと思はれた

    二十三
私の上に降る雪は
ひどい吹雪とみえました

    二十四
私の上に降る雪は
いとしめやかになりました……

   II
私の上に降る雪は
花びらのやうに降つてきます
薪《たきぎ》の燃える音もして
凍るみ空の黝《くろ》む頃

私の上に降る雪は
いとなよびかになつかしく
手を差伸べて降りました

私の上に降る雪は
熱い額に落ちもくる
涙のやうでありました

私の上に降る雪に
いとねんごろに感謝して、神様に
長生したいと祈りました

私の上に降る雪は
いと貞潔でありました


 時こそ今は……
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