い。

しかしさうするために、
もはや工夫《くふう》を凝らす余地もないなら……
心よ、
謙抑にして神恵を待てよ。

   IIII
いといと淡き今日の日は
雨|蕭々《せうせう》と降り洒《そそ》ぎ
水より淡《あは》き空気にて
林の香りすなりけり。

げに秋深き今日の日は
石の響きの如くなり。
思ひ出だにもあらぬがに
まして夢などあるべきか。

まことや我は石のごと
影の如くは生きてきぬ……
呼ばんとするに言葉なく
空の如くははてもなし。

それよかなしきわが心
いはれもなくて拳《こぶし》する
誰をか責むることかある?
せつなきことのかぎりなり。


 雪の宵 

      青いソフトに降る雪は
      過ぎしその手か囁《ささや》きか  白秋

ホテルの屋根に降る雪は
過ぎしその手か、囁きか
  
  ふかふか煙突|煙《けむ》吐いて、
  赤い火の粉も刎《は》ね上る。

今夜み空はまつ暗で、
暗い空から降る雪は……

  ほんにわかれたあのをんな
  いまごろどうしてゐるのやら。

ほんに別れたあのをんな、
いまに帰つてくるのやら

  徐《しづ》かに私は酒のんで
  悔と悔とに身も
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