い。
しかしさうするために、
もはや工夫《くふう》を凝らす余地もないなら……
心よ、
謙抑にして神恵を待てよ。
   IIII
いといと淡き今日の日は
雨|蕭々《せうせう》と降り洒《そそ》ぎ
水より淡《あは》き空気にて
林の香りすなりけり。
げに秋深き今日の日は
石の響きの如くなり。
思ひ出だにもあらぬがに
まして夢などあるべきか。
まことや我は石のごと
影の如くは生きてきぬ……
呼ばんとするに言葉なく
空の如くははてもなし。
それよかなしきわが心
いはれもなくて拳《こぶし》する
誰をか責むることかある?
せつなきことのかぎりなり。
 雪の宵 
      青いソフトに降る雪は
      過ぎしその手か囁《ささや》きか  白秋
ホテルの屋根に降る雪は
過ぎしその手か、囁きか
  
  ふかふか煙突|煙《けむ》吐いて、
  赤い火の粉も刎《は》ね上る。
今夜み空はまつ暗で、
暗い空から降る雪は……
  ほんにわかれたあのをんな
  いまごろどうしてゐるのやら。
ほんに別れたあのをんな、
いまに帰つてくるのやら
  徐《しづ》かに私は酒のんで
  悔と悔とに身も 
前へ 
次へ 
全37ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中原 中也 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング