よ。
従ひて、迎へられんとには非ず、
従ふことのみ学びとなるべく、学びて
汝が品格を高め、そが働きの裕《ゆた》かとならんため!
更くる夜
内海誓一郎に
毎晩々々、夜が更《ふ》けると、近所の湯屋の
水汲む音がきこえます。
流された残り湯が湯気となつて立ち、
昔ながらの真つ黒い武蔵野の夜です。
おつとり霧も立罩《たちこ》めて
その上に月が明るみます、
と、犬の遠吠がします。
その頃です、僕が囲炉裏《ゐろり》の前で、
あえかな夢をみますのは。
随分……今では損はれてはゐるものの
今でもやさしい心があつて、
こんな晩ではそれが徐《しづ》かに呟きだすのを、
感謝にみちて聴きいるのです、
感謝にみちて聴きいるのです。
つみびとの歌
阿部六郎に
わが生は、下手な植木師らに
あまりに夙《はや》く、手を入れられた悲しさよ!
由来わが血の大方は
頭にのぼり、煮え返り、滾《たぎ》り泡だつ。
おちつきがなく、あせり心地に、
つねに外界に索《もと》めんとする。
その行ひは愚かで、
その考えは分ち難い。
かくてこのあはれなる木は、
粗硬な樹皮を、空と風とに、
心は
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