たえず、追惜のおもひに沈み、
懶懦《らんだ》にして、とぎれとぎれの仕草をもち、
人にむかつては心弱く、諂《へつら》ひがちに、かくて
われにもない、愚事のかぎりを仕出来《しでか》してしまふ。
秋
秋
1
昨日まで燃えてゐた野が
今日茫然として、曇つた空の下《もと》につづく。
一雨毎に秋になるのだ、と人は云ふ
秋蝉は、もはやかしこに鳴いてゐる、
草の中の、ひともとの木の中に。
僕は煙草を喫ふ。その煙が
澱《よど》んだ空気の中をくねりながら昇る。
地平線はみつめようにもみつめられない
陽炎《かげろふ》の亡霊達が起《た》つたり坐つたりしてゐるので、
――僕は蹲《しやが》んでしまふ。
鈍い金色を帯びて、空は曇つてゐる、――相変らずだ、――
とても高いので、僕は俯《うつむ》いてしまふ。
僕は倦怠を観念して生きてゐるのだよ、
煙草の味が三通りくらゐにする。
死ももう、とほくはないのかもしれない……
2
『それではさよならといつて、
めうに真鍮《しんちゆう》の光沢かなんぞのやうな笑《ゑみ》を湛《たた》へて彼奴《あいつ》は、
あのドアの所を立ち去つたのだつたあね。
あの笑ひが
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