る。
千の天使が
  バスケットボールする。

私は目をつむる、
  かなしい酔ひだ。
もう不用になつたストーヴが
  白つぽく銹《さ》びてゐる。

朝、鈍い日が照つてて
  風がある。
千の天使が
  バスケットボールする。


少年時


少年時

黝《あをぐろ》い石に夏の日が照りつけ、
庭の地面が、朱色に睡つてゐた。

地平の果に蒸気が立つて、
世の亡ぶ、兆《きざし》のやうだつた。

麦田には風が低く打ち、
おぼろで、灰色だつた。
 
翔《と》びゆく雲の落とす影のやうに、
田の面《も》を過ぎる、昔の巨人の姿――

夏の日の午《ひる》過ぎ時刻
誰彼の午睡《ひるね》するとき、
私は野原を走つて行つた……

私は希望を唇に噛みつぶして
私はギロギロする目で諦めてゐた……
噫《ああ》、生きてゐた、私は生きてゐた!


盲目の秋

   I

風が立ち、浪が騒ぎ、
  無限の前に腕を振る。

その間《かん》、小さな紅《くれなゐ》の花が見えはするが、
  それもやがては潰れてしまふ。

風が立ち、浪が騒ぎ、
  無限のまへに腕を振る。

もう永遠に帰らないことを思つて
  酷白《こくはく》な
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