嘆息するのも幾たびであらう……

私の青春はもはや堅い血管となり、
  その中を曼珠沙華《ひがんばな》と夕陽とがゆきすぎる。

それはしづかで、きらびやかで、なみなみと湛《たた》へ、
  去りゆく女が最後にくれる笑《ゑま》ひのやうに、
  
厳《おごそ》かで、ゆたかで、それでゐて佗《わび》しく
  異様で、温かで、きらめいて胸に残る……

     あゝ、胸に残る……

風が立ち、浪が騒ぎ、
  無限のまへに腕を振る。

   II

これがどうならうと、あれがどうならうと、
そんなことはどうでもいいのだ。

これがどういふことであらうと、それがどういふことであらうと、
そんなことはなほさらどうだつていいのだ。

人には自恃《じじ》があればよい!
その余はすべてなるまゝだ……

自恃だ、自恃だ、自恃だ、自恃だ、
ただそれだけが人の行ひを罪としない。

平気で、陽気で、藁束《わらたば》のやうにしむみりと、
朝霧を煮釜に填《つ》めて、跳起きられればよい!

   III

私の聖母《サンタ・マリヤ》!
  とにかく私は血を吐いた! ……
おまへが情けをうけてくれないので、
  とにかく私は
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