芝生のむかふは森でして
とても黒々してゐます

おゝチルシスとアマントが
こそこそ話してゐる間

森の中では死んだ子が
蛍のやうに蹲《しやが》んでる


村の時計

村の大きな時計は、
ひねもす動いてゐた

その字板のペンキは
もう艶《つや》が消えてゐた

近寄つてみると、
小さなひびが沢山にあるのだつた

それで夕陽が当つてさへが、
おとなしい色をしてゐた

時を打つ前には、
ぜいぜいと鳴つた

字板が鳴るのか中の機械が鳴るのか
僕にも誰にも分らなかつた


或る男の肖像

   1

洋行帰りのその洒落者《しやれもの》は、
齢《とし》をとつても髪に緑の油をつけてた。

夜毎喫茶店にあらはれて、
其処《そこ》の主人と話してゐる様《さま》はあはれげであつた。

死んだと聞いてはいつそうあはれであつた。

   2

        ――幻滅は鋼《はがね》のいろ。
髪毛の艶《つや》と、ラムプの金との夕まぐれ
庭に向つて、開け放たれた戸口から、
彼は戸外に出て行つた。

剃りたての、頚条《うなじ》も手頸《てくび》も
どこもかしこもそはそはと、
寒かつた。

開け放たれた戸口から
悔恨は、
前へ 次へ
全40ページ中33ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中原 中也 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング