の時 時は 隔つれ、
此処《ここ》と 彼処《かしこ》と 所は 異れ、
はたはた はたはた み空に ひとり、
いまも 渝《かは》らぬ かの 黒旗よ。
蜻蛉に寄す
あんまり晴れてる 秋の空
赤い蜻蛉《とんぼ》が 飛んでゐる
淡《あは》い夕陽を 浴びながら
僕は野原に 立つてゐる
遠くに工場の 煙突が
夕陽にかすんで みえてゐる
大きな溜息 一つついて
僕は蹲《しやが》んで 石を拾ふ
その石くれの 冷たさが
漸く手中《しゆちゆう》で ぬくもると
僕は放《ほか》して 今度は草を
夕陽を浴びてる 草を抜く
抜かれた草は 土の上で
ほのかほのかに 萎《な》えてゆく
遠くに工場の 煙突は
夕陽に霞《かす》んで みえてゐる
−−−−−−−−−−−−−
永訣の秋
ゆきてかへらぬ
――京都――
僕は此の世の果てにゐた。陽は温暖に降り洒《そそ》ぎ、風は花々|揺《ゆす》つてゐた。
木橋の、埃りは終日、沈黙し、ポストは終日|赫々《あかあか》と、風車を付けた乳母車《うばぐるま》、いつも街上に停《とま》つてゐた。
棲む人達は子供等は、街上に見えず、僕に一人の縁者《みより》
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