ぶ》つてゐる、
その煙は、自分自らを
知つてでもゐるやうにのぼる。
誘はれるでもなく
覓《もと》めるでもなく、
私の心が燻る……
冬の明け方
残んの雪が瓦に少なく固く
枯木の小枝が鹿のやうに睡《ねむ》い、
冬の朝の六時
私の頭も睡い。
烏が啼いて通る――
庭の地面も鹿のやうに睡い。
――林が逃げた農家が逃げた、
空は悲しい衰弱。
私の心は悲しい……
やがて薄日が射し
青空が開《あ》く。
上の上の空でジュピター神の砲《ひづつ》が鳴る。
――四方《よも》の山が沈み、
農家の庭が欠伸《あくび》をし、
道は空へと挨拶する。
私の心は悲しい……
老いたる者をして
――「空しき秋」第十二
老いたる者をして静謐《せいひつ》の裡《うち》にあらしめよ
そは彼等こころゆくまで悔いんためなり
吾は悔いんことを欲す
こころゆくまで悔ゆるは洵《まこと》に魂を休むればなり
あゝ はてしもなく涕《な》かんことこそ望ましけれ
父も母も兄弟《はらから》も友も、はた見知らざる人々をも忘れて
東明《しののめ》の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく[#「はたなび
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