tの近く、今し昼寝をしてゐたが、
これからやをら起き上る。ピトウは上衣を着終つて、
皇帝の方に振向いて、偉《おほ》いなる名に茫然自失《ぼんやり》してゐる。

右方には、デュマネエが、シャスポー銃に凭《もた》れかゝり、
丸刈の襟頸《えりくび》が、顫へわななくのを感じてゐる、
そして、『皇帝万歳!』を唱へる。その隣りの男は押黙つてゐる。

軍帽は恰《(あたか)》も黒い太陽だ!――その真ン中に、赤と青とで彩色された
いと朴訥なボキヨンは、腹を突き出し、ドツカと立つて、
後方部隊を前に出しながら、『何のためだ?……』と云つてるやうだ。
[#地付き]〔一八七〇、十月〕
[#改ページ]

 いたづら好きな女


ワニスと果物の匂ひのする、
褐色の食堂の中に、思ふ存分
名も知れぬベルギー料理を皿に盛り、
私はひどく大きい椅子に埋まつてゐた。

食べながら、大時計《オルロージュ》の音を聞き、好い気持でジツとしてゐた。
サツとばかりに料理場の扉《と》が開くと、
女中が出て来た、何事だらう、
とにかく下手な襟掛をして、ベルギー・レースを冠つてゐる。

そして小さな顫へる指で、
桃の肌へのその頬を絶えずさは
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