寒げな森が、血を出してらアな
   恋しさ余つて、

枝から緑の雫を垂れてヨ、
   若芽出してら、
それをみてれアおめへも俺も、
   肉が顫はア。

苜蓿《(うまごやし)》ン中おめへはブツ込む
   長《なげ》エ肩掛、
大きな黒瞳《くろめ》のまはりが青味の
   聖なる別嬪、

田舎の、恋する女ぢやおめへは、
   何処へでも
まるでシャンペンが泡吹くやうに
   おめへは笑を撒き散らす、

俺に笑へよ、酔つて暴れて
   おめへを抱かうぜ
こオんな具合《ぐえイ》に、――立派な髪毛ぢや
   嚥んでやらうゾ

苺みてエなおめへの味をヨ、
   肉の花ぢやよ
泥棒みてエにおめへを掠める
   風に笑へだ

御苦労様にも、おめへを厭《いと》はす
   野薔薇に笑へだ、
殊には笑へだ、狂つた女子《あまつこ》、
   こちのひとへだ!……

十七か! おめへは幸福《しやはせ》。
   おゝ! 広《ひれ》エ草ツ原、
素ツ晴らしい田舎!
   ――話しなよ、もそつと寄つてサ……

そなたが胸をばわが胸の上《へ》にだ、
   話をしいしい
ゆつくりゆかうぜ、大きな森の方サ
   雨水《あまみづ
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