髑蛯ォな額の上に蘆《(あし)》が傾きかかります。
傷つけられた睡蓮たちは彼女を囲繞《とりま》き溜息します。
彼女は時々覚まします、睡つてゐる榛《はんのき》の
中の何かの塒《ねぐら》をば、すると小さな羽ばたきがそこから逃れて出てゆきます。
不思議な一つの歌声が金の星から堕ちてきます。
※[#ローマ数字2、1−13−22]
雪の如くも美しい、おゝ蒼ざめたオフェリアよ、
さうだ、おまへは死んだのだ、暗い流れに運ばれて!
それといふのもノルヱーの高い山から吹く風が
おまへの耳にひそひそと酷《むご》い自由を吹込んだため。
それといふのもおまへの髪毛に、押寄せた風の一吹が、
おまへの夢みる心には、ただならぬ音とも聞こえたがため、
それといふのも樹の嘆かひに、夜毎の闇の吐く溜息に、
おまへの心は天地の声を、聞き落《もら》すこともなかつたゆゑに。
それといふのも潮《うしほ》の音《おと》が、さても巨いな残喘《(ざんぜん)》のごと、
情けにあつい子供のやうな、おまへの胸を痛めたがため。
それといふのも四月の朝に、美々《びゝ》しい一人の蒼ざめた騎手、
哀れな狂者がおまへの膝に、黙つて坐り
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