ト、若くて綺麗な男をば
思つてゐるのはかのニンフ、波もて彼を抱締める……
愛の微風は闇の中、通り過ぎます……
さてもめでたい森の中、大樹々々の凄さの中に、
立つてゐるのは物云はぬ大理石像、神々の、
それの一つの御顔《おんかほ》に鶯は塒《ねぐら》を作り、
神々は耳傾けて、『人の子』と『終わりなき世』を案じ顔。
[#地付き]〔一八七〇、五月〕
[#改ページ]
オフェリア
※[#ローマ数字1、1−13−21]
星眠る暗く静かな浪の上、
蒼白のオフェリア漂ふ、大百合か、
漂ふ、いともゆるやかに長き面※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]《かつぎ》に横たはり。
近くの森では鳴つてます鹿遂詰めし合図の笛。
以来千年以上です真白の真白の妖怪の
哀しい哀しいオフェリアが、其処な流れを過ぎてから。
以来千年以上ですその恋ゆゑの狂《くる》ひ女《め》が
そのロマンスを夕風に、呟いてから。
風は彼女の胸を撫で、水にしづかにゆらめける
彼女の大きい面※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]《かほぎぬ》を花冠《くわくわん》のやうにひろげます。
柳は慄へてその肩に熱い涙を落とします。
夢み
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