キべりゆく
夢みる大きい白鳥は、大変|恋々《れんれん》してゐます、
その真つ白の羽をもてレダを胸には抱締めます、
さて※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]ニュス様のお通りです、
めづらかな腰の丸みよ、反身《そりみ》になつて
幅広の胸に黄金《こがね》をはれがましくも、
雪かと白いそのお腹《なか》には、まつ黒い苔が飾られて、
ヘラクレス、この調練師《ならして》は誇りかに、
獅《(しし)》の毛皮をゆたらかな五体に締めて、
恐《こは》いうちにも優しい顔して、地平の方《かた》へと進みゆく!……
おぼろに照らす夏の月の、月の光に照らされて
立つて夢みる裸身のもの
丈長髪も金に染み蒼ざめ重き波をなす
これぞ御存じアリアドネ、沈黙《しじま》の空を眺めゐる……
苔も閃めく林間の空地《あきち》の中の其処にして、
肌も真白のセレネエは面※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]《かつぎ》なびくにまかせつつ、
エンデミオンの足許に、怖づ怖づとして、
蒼白い月の光のその中で一寸|接唇《くちづけ》するのです……
泉は遐《(とほ)》くで泣いてます うつとり和《なご》んで泣いてます……
甕《(かめ)》に肘をば突きまし
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