オか
心に持たぬ惨めなる
さもしい限りの
千の寡婦《(くわふ)》等も、

処女マリアに
祈らうといふか?

私は随分忍耐もした
決して忘れもしはすまい。
つもる怖れや苦しみは
空に向つて昨日|去《い》つた。

今たゞわけも分らぬ渇きが
私の血をば暗くする。

忘れ去られた
牧野ときたら
香《かをり》と毒麦身に着けて
ふくらみ花を咲かすのだ、

汚い蠅等の残忍な
翅音《はおと》も伴ひ。

何事にも屈従した
無駄だつた青春よ、
繊細さのために
私は生涯をそこなつたのだ。

あゝ! 心といふ心の
陶酔する時の来らんことを!
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 彼女は埃及舞妓か?


彼女は埃及舞妓《アルメ》か?……かはたれどきに
火の花と崩《くづほ》れるのぢやあるまいか……

豪華な都会にほど遠からぬ
壮んな眺めを前にして!

美しや! おまけにこれはなくてかなはぬ
――海女《あま》や、海賊の歌のため、

だつて彼女の表情は、消え去りがてにも猶海の
夜《よる》の歓宴《うたげ》を信じてた!
[#改ページ]

 幸福


  季節《とき》が流れる、城寨《おしろ》が見える、
  無疵《(むきず)》な魂《もの》なぞ
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