ス処にあらう?

  季節《とき》が流れる、城寨《おしろ》が見える、

私の手がけた幸福の
秘法を誰が脱《のが》れ得よう。

ゴオルの鶏《とり》が鳴くたびに、
「幸福」こそは万歳だ。

もはや何にも希ふまい、
私はそいつで一杯だ。

身も魂も恍惚《とろ》けては、
努力もへちまもあるものか。

  季節《とき》が流れる、城寨《おしろ》が見える。

私が何を言つてるのかつて?
言葉なんぞはふつ飛んぢまへだ!

  季節《とき》が流れる、城寨《おしろ》が見える!
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 飢餓の祭り


  俺の飢餓よ、アンヌ、アンヌ、
   驢馬に乗つて失せろ。

俺に食慾《くひけ》があるとしてもだ
土や礫《いし》に対してくらゐだ。
Dinn! dinn! dinn! dinn! 空気を食はう、
岩を、炭を、鉄を食はう。

飢餓よ、あつちけ。草をやれ、
  音《おん》の牧場に!
昼顔の、愉快な毒でも
  吸ふがいい。

乞食が砕いた礫《いし》でも啖《くら》へ、
 教会堂の古びた石でも、
 洪水の子の磧の石でも、
 寒い谷間の麺麭《(パン)》でも啖へ!

 飢餓とはかい、黒い空気のどんづまり、
 
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