で、
あの緑色の旅籠屋が
今時《いまどき》あらうわけもない。

     ※[#ローマ数字5、1−13−25]

   結論

青野にわななく鳩《ふたこゑどり》、
追ひまはされる禽獣《とりけもの》、
水に棲むどち、家畜どち、
瀕死の蝶さへ渇望《かわき》はもつ。

さば雲もろとも融けること、
――すがすがしさにうべなはれ、
曙《あけぼの》が、森に満たするみづみづし
菫の上に息絶ゆること!
[#改ページ]

 恥


刃《は》が脳漿を切らないかぎり、
白くて緑《あを》くて脂《あぶら》ぎつたる
このムツとするお荷物の
さつぱり致そう筈もない……

(あゝ、奴は切らなけあなるまいに、
その鼻、その脣《くち》、その耳を
その腹も! すばらしや、
脚も棄てなけあなるまいに!)

だが、いや、確かに
頭に刃、
脇に砂礫《こいし》を、
腸に火を

加へぬかぎりは、寸時たりと、
五月蠅《(うるさ)》い子供の此ン畜生が、
ちよこまかと
謀反気やめることもない

モン・ロシウの猫のやう、
何処《どこ》も彼処《かしこ》も臭くする!
――だが死の時には、神様よ、
なんとか祈りも出ますやう……
[#改ページ]


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