若夫婦
部屋は濃藍の空に向つて開かれてゐる。
所狭いまでに手文庫や櫃!
外面《そとも》の壁には一面のおはぐろ花
そこに化物の歯茎は顫へてゐる。
なんと、天才流儀ぢやないか、
この消費《つひえ》、この不秩序は!
桑の実呉れるアフリカ魔女の趣好もかくや
部屋の隅々には鉛縁《なまりぶち》。
と、数名の者が這入つて来る、不平|面《づら》した名附親等が、
色んな食器戸棚の上に光線《ひかり》の襞《(ひだ)》を投げながら、
さて止る! 若夫婦は失礼千万にも留守してる
そこでと、何にもはじまらぬ。
聟殿《(むこ)》は、乗ぜられやすい残臭を、とゞめてゐる、
その不在中、ずつとこの部屋中に。
意地悪な水の精等も
寝床をうろつきまはつてゐる。
夜《よ》の微笑、新妻《にひづま》の微笑、おゝ! 蜜月は
そのかずかずを摘むのであらう、
銅《あかがね》の、千の帯にてかの空を満たしもしよう。
さて二人は、鼠ごつこもするのであらう。
――日が暮れてから、銃を打つ時出るやうな
気狂ひじみた蒼い火が、出さへしなけれあいいがなあ。
――寧ろ、純白神聖なベツレヘムの景観が、
この若夫婦の部屋の窓の、あの空色を
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