星でなし。
しかすがに彼等とどまる
――シシリーやアルマーニュ、
かの蒼ざめ愁《かな》しい霧の中《うち》、
粛として!
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涙
鳥たちと畜群と、村人達から遐《(とほ)》く離れて、
私はとある叢林の中に、蹲《(しやが)》んで酒を酌んでゐた
榛《(はしばみ)》の、やさしい森に繞られて。
生ツぽい、微温の午後は霧がしてゐた。
かのいたいけなオワズの川、声なき小楡《(こにれ)》、花なき芝生、
垂れ罩《(こ)》めた空から私が酌んだのは――
瓢《ひさご》の中から酌めたのは、味もそつけもありはせぬ
徒《(いたづら)》に汗をかゝせる金の液。
かくて私は旅籠屋《はたごや》の、ボロ看板となつたのだ。
やがて嵐は空を変へ、暗くした。
黒い国々、湖水々々《みづうみみづうみ》、竿や棒、
はては清夜の列柱か、数々の船著場か。
樹々の雨水《あめみづ》砂に滲《し》み
風は空から氷片を、泥池めがけてぶつつけた……
あゝ、金、貝甲の採集人かなんぞのやうに、
私には、酒なぞほんにどうでもよいと申しませう。
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カシスの川
カシスの川は何にも知らずに流れる
異様な谷間を、
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