フ
怪鳥の糞と争ひを振り落とす、
かくてまた漂ひゆけば、わが細綱を横切つて
水死人の幾人か後方《しりへ》にと流れて行つた……
私としてからが浦々の乱れた髪に踏み迷ひ
鳥も棲まはぬ気圏《そら》までも颶風《(ぐふう)》によつて投げられたらば
海防艦《モニトル》もハンザの船も
水に酔つた私の屍骸《むくろ》を救つてくれはしないであらう、
思ひのままに、煙吹き、紫色の霧立てて、
私は、詩人等に美味しいジャミや、
太陽の蘇苔《こけ》や青空の鼻涕《はな》を呉れる
壁のやうに赤らんだ空の中をずんずん進んだ、
電気と閃く星を著け、
黒い海馬に衛《まも》られて、狂へる小舟は走つてゐた、
七月が、丸太ン棒で打つかとばかり
燃える漏斗のかたちした紺青の空を揺るがせた時、
私は慄へてゐた、五十里の彼方にて
ベヘモと渦潮《うづ》の発情の気色《けはひ》がすると、
ああ永遠に、青き不動を紡ぐ海よ、
昔ながらの欄干に倚《(よ)》る欧羅巴《(ヨーロッパ)》が私は恋しいよ。
私は見た! 天にある群島を! その島々の
狂ほしいまでのその空は漂流《ただよ》ふ者に開放されてた、
底知れぬこんな夜々には眠つてゐるのか、も
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