フ下にて崇めらる、ペルシャの国の、
或る知られざる神の持つ、銅《あかがね》に縁《ふち》どられたる額して、

慓悍《(へうかん)》なれども童貞の悲観的なるやさしさをもち
おのが秀れた執心に誇りを感じ、
若々し海かはた、ダイアモンドの地層の上に
きららめく真夏の夜々の涙かや、

此の若者、現世《うつしよ》の醜悪の前に、
心の底よりゾツとして、いたく苛立ち、
癒しがたなき傷手を負ひてそれよりは、
やさしき妹《いも》のありもせばやと、思ひはじめぬ。

さあれ、女よ、臓腑の塊り、憐憫の情持てるもの、
汝、女にあればとて、吾《あ》の謂ふやさしき妹《いも》にはあらじ!
黒き眼眸《まなざし》、茶色めく影睡る腹持たざれば、
軽やかの指、ふくよかの胸持たざれば。

目覚ます術《すべ》なき大いなる眸子《ひとみ》をもてる盲目《めくら》の女よ、
わが如何なる抱擁もつひに汝《なれ》には訝かしさのみ、
我等に附纏《いつきまと》ふのはいつでも汝《おまへ》、乳房の運び手、
我等おまへを接唇《くちづけ》る、穏やかに人魅する情熱《パシオン》よ。

汝《な》が憎しみ、汝《な》が失神、汝が絶望を、
即ち甞ていためられたるかの獣
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