ヘ丈夫な手してる、
だが夏負けして仄かに暗く、
蒼白いこと死人の手のやう。
――ジュアナの手とも云ふべきだ?
この双つの手は褐の乳脂を
快楽《けらく》の池に汲んだのだらうか?
この双つの手は月きららめく
澄めらの水に浸つたものか?
太古の空を飲むだのだらうか?
可愛いお膝にちよんと置かれて。
この手で葉巻を巻いただらうか、
それともダイヤを商《あきな》つたのか?
マリアの像の熱き御足に
金の花をば萎ませたらうか?
西洋莨※[#「くさかんむり/宕」、第3水準1−91−3]《はしりどころ》の黒い血は
掌《てのひら》の中で覚めたり睡《ね》たり。
双翅類をば猟《(か)》り集め
まだ明けやらぬ晨《あした》のけはひを
花々の密[#「密」に「ママ」の注記]の槽へと飛ばすのか?
それとも毒の注射師か?
如何なる夢が捉へたのだらう?
展伸《ひろ》げられたるこの手をば、
亜細亜《(アジア)》のかカンガ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ールのか
それともシオンの不思議な夢か?
――密柑[#「密柑」に「(ママ)」の注記]を売りはしなかつた、
神々の足の上にて、日に焼けたりもしなかつた。
この手
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