、、繖形花顫動《(さんけいくわせんどう)》、
I、緋色の布、飛散《とばち》つた血、怒りやまた
熱烈な悔悛に於けるみごとな笑ひ。

U、循環期、鮮緑の海の聖なる身慄ひ、
動物散在する牧養地の静けさ、錬金術が
学者の額に刻み付けた皺の静けさ。

O、至上な喇叭《(らつぱ)》の異様にも突裂《つんざ》く叫び、
人の世と天使の世界を貫く沈黙。
――その目紫の光を放つ、物の終末!
[#改ページ]

 四行詩


星は汝が耳の核心に薔薇色に涕《(な)》き、

無限は汝《な》が頸《うなじ》より腰にかけてぞ真白に巡る、

海は朱《あけ》き汝《なれ》が乳房を褐色《かちいろ》の真珠とはなし、

して人は黒き血ながす至高の汝《なれ》が脇腹の上……
[#改ページ]

 烏


神よ、牧場が寒い時、
さびれすがれた村々に
御告《みつげ》の鐘も鳴りやんで
見渡すかぎり花もない時、
高い空から降《お》ろして下さい
あのなつかしい烏たち。

厳《いか》しい叫びの奇妙な部隊よ、
木枯は、君等の巣《ねぐら》を襲撃し!
君等黄ばんだ河添ひに、
古い十字架立つてる路に、
溝に窪地に、
飛び散れよ、あざ嗤《(わら)》へ!

幾千となくフランスの野に
昨日の死者が眠れる其処に、
冬よ、ゆつくりとどまるがよい、
通行人《とほるひと》等がしむみりせんため!
君等|義務《つとめ》の叫び手となれ、
おゝわが喪服の鳥たちよ!

だが、あゝ御空《みそら》の聖人たちよ、夕暮迫る檣《マスト》のやうな
※[#「木+解」、第3水準1−86−22]《(かし)》の高みにゐる御身たち、
五月の頬白見逃してやれよ
あれら森の深みに繋がれ、
出ること叶はず草地に縛られ、
しよ[#「よ」に「ママ」の注記]うこともない輩《ともがら》のため!
[#改丁]

[#ページの左右中央]
     飾画篇
[#改ページ]

 静寂


アカシヤのほとり、
波羅門《(バラモン)》僧の如く聴け。
四月に、櫂は
鮮緑よ!

きれいな靄《(もや)》の中にして
フ※[#小書き片仮名ヱ、104−7]ベの方《かた》に! みるべしな
頭の貌《かたち》が動いてる
昔の聖者の頭のかたち……

明るい藁塚はた岬、
うつくし甍《(いらか)》をとほざけて
媚薬《びやく》取り出しこころみし
このましきかな古代|人《びと》……

さてもかの、
夜《よる》の吐き出す濃い霧は
祭でもなし

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