た、その抵抗も物の数かは
河は懲され、エルキュルは、その上に、大木の幹を振り翳《かざ》し、
ひつぱたきひつぱたく、河は瀕死の態《てい》となり砂原の上にのめされた。
扨エルキュルは立直り、※[#始め二重括弧、1−2−54]此の腕前を知らんかい、たはけ奴《め》が!
我猶揺籃にありし頃、二頭の竜《ドラゴン》打つて取つたる
かの時既に鍛へたる此の我が腕を知らんかい!……※[#終わり二重括弧、1−2−55]

河は慚愧に顛動し、覆へされたる栄誉をば、
思へば胸は悲痛に滾《たぎ》ち、跳ねて狂へば
獰猛の眼《まなこ》は炎と燃え熾《さか》り、角は突つ立ち風を切り、
咆《(ほ)》ゆれば天も顫《(ふる)》へたり。
エルキュルこれを見ていたく笑ひて
ひつ捉へ、振り廻し、痙攣《ひきつけ》はじめしその五体
※[#「革+堂」、第3水準1−93−80]《(たう)》とばかりに投げ出だし、膝にて頸をば圧へ付け、
腰に咽喉《のど》をば敷き据ゑて、打ち叩き打ち叩き
力の限りに懲しめば、やがては河も悶絶す。
息を絶えたる怪物に、勇ましきかなエルキュルは、
打|跨《(またが)》つて血濡れたる、額の角を引抜いて、茲に捷利を完うす
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